はじめに

人が社会の中でどう振る舞うのか?
どういう環境に置かれると意図しない行動をとってしまうのか?
そういったことに興味があって、大学では社会心理学を学んでいました。

IT企業に入りエンジニアとして仕事をしていく中で、
あれ、社会心理学で学んだことって結構役立つのか…?と思うことが何度かありました。

そんなタイミングで目に止まったのが「図解 モチベーション大百科」。
ライトな語り口で心理学実験の内容が紹介されていて、
いろいろな現象に触れてビジネスに活かすにはぴったりなのではないかと思い、読んでみました。

すべてを紹介することはできないので、気になったものだけピックアップしてみます。

なお、本気で心理学を学びたい方におすすめできるわけではありません。
実験の内容や名称、出典なども含めてきちんと確認したい場合は、
より学術的な本を購入して読むことをおすすめします。



集合的無知

人数が多いほど、他の誰かが対処してくれるだろうと考えてしまう。

これは心理学では非常に有名な「キティ・ジェノヴィーズ事件」で関心が高まった「傍観者効果」の1つです。
キティ・ジェノヴィーズ事件は1964年ニューヨークで、
38人の傍観者がいる中で女性が襲われて命を落としてしまったという事件です。
38人もいるのだから誰か止められたのでは?すぐに警察を呼べたら救えたのでは?と考えてしまいがちですが、
誰かがやってくれると考えたその街の住人たちはなかなか警察を呼ばなかった、
これは都会の冷たさではなく、そういった人間の心理なのだということが証明された事件です。

なにか問題を発見したら「誰かがやってくれる」ではなくまず自分が確認すること、
自分がピンチに陥ったら誰かを指名して助けを求めることが必要です。

無意識の適応

「できる人」とラベリングされると、それだけで成績が向上する。

教師の期待によって生徒の成績が向上する「ピグマリオン効果」です。
期待をかけることには2つの効果があります。

  1. 周囲が密なコミュニケーションをとろうとしたり気にかけたりする
  2. 本人が「できる」と意識して向上する

例えばチームの新人に対して、
「お前はできるやつだ!」と伝えて周囲のフォローアップと本人の頑張りを引き出してあげるといいのかもしれません。

社会的手抜き

「他の誰かがやってくれるだろう」と考えて、全力を出しきらない。

先に挙げた「集合的無知」と少し似ています。
これは「リンゲルマン効果」と言って、
1人だと100%の力を出せても集団の人数が増えるにつれてどんどん出せる力が減っていってしまう現象です。
ちなみに、応援してくれている人がいると集団でも100%の力を出せるという実験もあるそうです。

このリンゲルマン効果から言えるのは、「責任範囲を明確にすべき」ということ。
○○の責任者!と言われれば集団の誰より責任を負うことになるので、より100%の実力に近づけます。



妥当性の論理

自分が不利益を被るというより、他人が不利益を被ると伝えたほうが関心を持ってもらいやすい。

例は「不利益」ですが、逆に「利益」とか「役に立つ」というポジティブな意味合いでも現象は同じそうです。

割とタスクを抱えて残業しがちなメンバーに対して、
「残業で帰りが遅くなって生産性が下がったら他のメンバーに影響出るよ」と伝えるのはアリかもと思いました。
ただ、この表現だとネガティブに伝わるのでタイミングが肝心ですね…。

一貫性の原理

宣言をしたらそのとおりにやろうとする。

期待されてYesと返答したらその通りであろうとするし、
自分でやると宣言したらその通りにやろうとする、つまり「約束を守ろうとする」原理です。

マーケティングに応用すれば、一度「買います」と意思表示したものは後から追加料金の話をされても断りづらく、
目標設定に応用すれば、自分で立てて人に宣言した目標は守ろうとします。

交互練習

交互に学習したことは理解しづらいが長期記憶に残りやすい。

問題をカテゴリごとに解くのと、カテゴリ関係なく順不同で解くのとだと、
前者のほうが直後に実施したテストだと高得点を取れるが、
しばらく間を空けて実施したテストだと後者のほうが高得点を取れるそうです。

私は個人的に一度読んだ本の内容が全然思い出せなくて(だからブログに書いているわけですが…)困っているのですが、
複数の本を交互に読んだほうが記憶に残りやすいということで驚きました。
なんか中途半端な気がしてしまって、1冊ずつ読んでいました…。

偽陽性と偽陰性

当事者の予想は甘すぎる、管理者の予想は厳しすぎる。

すなわち、第三者の予想が一番当たりやすいとのことです。
なにかチャレンジをする際に成功するかしないかを判断するとき、
時にはそのコミュニティ外の第三者に意見を仰ぐことも有意義のようです。

新人教育に焦点を当てると、
OJT担当やマネージャーの評価は厳しくなりがちなのでバイヤスがかかりやすいことを心に止めておくべきなのだなと思いました。



権威者の指示

権威の力は人間の善悪を超えて影響を及ぼす。

有名な「ミルグラムの服従実験」です。
実験の管理者からある人物に電流を流すよう指示された被験者が、
ボルト数を上げるに連れ苦しむ人の声を聞きつつも指示通りに電流を流してしまうというある種恐ろしい実験です。

類似の実験として、「スタンフォード監獄実験」があります。
これは、看守役と受刑者役に分けられた被験者が、
時間が経つにつれてよりそれぞれの役割どおりに振る舞うようになったという実験です。

人間は一定の閉鎖的状況においては誰でも非人道的になることができ、
第二次世界大戦のナチスの強制収容所でもこのような状態が起こっていたと考えられます。

終わりに

本がイラスト付きで非常にわかりやすく書いてあるので、スムーズに読み進めることができました。
細かい実験の内容や具体的な名称が出てきていない項目もあったので、
他の方のレビューにもありましたが参考文献として挙げておいてもらえるとより学術的な価値が高まると感じました。
とはいえ導入書的なポジションだと思うので、このままとっつきやすい形のほうが狙い通りなのかもしれません。

一人間として、一エンジニアとして、そして一スクラムマスターとして役立ちそうなポイントがいくつもあったので、
今後も手元において愛読書にしたいと思います。

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